2024/03/06

いぬと


もう一度 いぬと一緒に雪のある山へ行けたら と思っている


毎日のさんぽくらいならなんともないが
それでもちょっと走ったりすれば途端に息が切れて咳が止まらない

時々調子にのってリードを咥えて走り回ることがあるのだけれど
すると みるみるうちに舌が青銅のような色に変わってくるのが見て取れる
そうなると 興奮が醒めて落ち着くまでどうにもならないのだが
いぬは こちらが慌ててとり押さえるよりも先に
自分がこれ以上動けないことを悟るのか
一分と経たないうちにそこらに座り込んで我を取り戻そうと静かになる

それでもわりと平らなところならどうだろうか、、、
春になるまえに ひと気がなくて家からもそう遠くない森で、、と思うのだ


雪が降ってしばらくした後 目星をつけた辺りへ様子を見に出かけた

山は思っていた通りにひと気はなく
出だしこそ難儀な登りだけれどそこさえ過ぎれば穏やかな起伏の静かな森だ

ただ思っていたよりも雪が深かった
そして当たり前だけれど 動物の足跡が横に縦に どこまでもつながっていた


これが一番の問題だ
いぬは嬉々としてなんの躊躇いもなくそれを辿るに違いない
そしてこれまで同様 どこまでもそれを追って森の奥へ消えて行くだろう

そこでもしいぬになにかが起こったとしたら、、、

そもそもこの深雪では
いくらいぬが本調子でないといっても
あれの後ろを付いて追うことはまず不可能だ
仮に付いて行く事が出来たとしても
可なりの確率で谷筋を伝うこととなるだろう
そしていぬが何かの追跡を諦めるのはその行き止まりである
つまり谿の底だ

谷は雪が吹き溜まる
平時であればサラサラの吹き溜まりに嵌まるのも楽しいが
そんな所をいぬを抱えて登り返すとなると
それは問題どころの騒ぎではない

やいのやいの笑いながら這い上がって来れるのならまだしも
そうなると笑ってなどいられる筈もなくお互い顔面蒼白で余裕のかけらもないだろう


いぬは雪の原が本当に好きなんだ
おまけになにかの痕跡には決して抗えないときている
そして最終的に実体との遭遇ともなれば 感情だけでなく全てが爆発する

それでもいぬは(これまでであれば)戻ってくる(戻ってこれた)
その戻るまでの時間が長いか短いかの違いこそあれ
いぬは必ずワタシの足元へと戻ってくる

あのいぬは幸運にも戻ることを忘れた事はないし
この先も絶対に忘れない
先代だって先々代だってずっとそうしてきたのだ


ただもうこれまで通りとはいかない

もちろん
いまでも(万全でなくても)一緒に山へ行けばそれはそれは喜ぶに違いない
我を忘れて獣の臭いを嗅いだりうろついたりするに違いない
それが大好きだし そういうことに心から幸せを感じるだろう
だけどやめておこうと思う
これまで散々連れまわしては楽しませてもらったのだから
ここで欲をかいて酷い結末にでもなったらそれこそ台無しである


この先は 裏山の雑木で のんびりいぬに付き合う事にしよう
遠くの山も近所の雑木もそう違いはないのだ

雪だってうんとたまにだけれど積もることもある
その雪が多少湿った雪だとしてもワタシが長靴でも履けば済む話だ

もちろん遠くの山に降る雪はさらさらでふかふかだけど
違いといえばほんとにそれくらいのものだから、、、、

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