2022/04/21

雨子釣

 


前の週に降った雨はとても良い加減の雨でした


しかし雨が降ったからといって

そうやすやすと良い思いが出来るわけがない事くらいは分かっています

それでも予報官が ”雨の後はぐんと暖かくなるでしょう” そんなことをいうんですよ

となれば仕方がありません 一も二もなく雨子釣へ行かざるを得ないとなります


季節の初めには干物を買ったりあちこちの小沢の様子を見ながらと

それはそれは道中のんびりとしたものでした

それが 春も早二度目となれば一目散に目当ての谿沢へと向かいます

ただし そうやって向かったわりにはそれほど早くに川っぷちに立てたわけでもなく

蓋を開けてみれば 早くに出発した筈も何時も通りの時間割です



万事が万事そんな風ですので

お察しの通り 川辺に着いたのはまたしても昼も過ぎようかという頃でした


車を寄せたのは誰が通るはずもない とも思える寂しげな林道です

しかし そんな荒れた寂しい道を車が一台また一台と行ったり来たり

そしてその中の一台が側に止まり

ぐるぐると窓を下ろし

その車に乗った小父ちゃんがワタシに向かって言ったのです

  ”釣れたかぁ” と

当然ながらその小父ちゃんは

〈こ奴は朝からやって昼めし休憩に上がってきたんだな〉

と そう思ったに違いありません

しかし此方は取り繕いようのない馬鹿面こいて(手にはインスタント麺を持って)

  ”今来ました これからです” と正直に答えるのでした

すると なんと哀れ気の毒なとでも思ったのでしょう

小父ちゃんは さもとっておきの場所だと言わんばかりに

事細かに上流に良いところがあると それはそれは親切丁寧に教えてくれました

ただし 去り際に ”この時間じゃ喰いつかんがね”  と付け足すのを忘れずに


地元の方の情報は時に確かです

しかし よそ者に教えても大丈夫な範囲でという事が往々にしてある事も確かで、、

まあ 掛け値なしに信じられるか否かは別にして

ある程度心の拠り所になると思えばそれだけで僅かな余裕が持てるというものです



里にしてはきつい傾斜を下ると

狭いながらもしっかりとした河原があり

そしてそこにはぼんぼんのような花が咲いていました


先日も言いましたが

花を愛でている場合ではないことくらいは分かっています

でも 毛鉤を振り込む前に 

ちょっとくらい花を眺めていたとしても大勢に影響はないでしょう

というより そのくらいの余裕は是非とも持っておきたいものです

河原に降りて ほんの少し間をおくんですね あがった息を整える意味でも

それから棹を振り上げるんです

その後は休みなく振り続ける訳ですから



 それにしても

毎年この時期には ”春は里だな”  とかなんとかもっともらしい事を記しているわりに

どうしてか いつも無駄と思える程に上を目指し急いてしまいます

 理想としては

野良仕事をしている小父ちゃんや小母ちゃんの姿を横目に

伸びすぎた菜っ葉の先についた花なんかを眺めつつのんびり河原へ降りて行きたいのです

 なのに

年の初め まだまだ足腰こなれないうちから

結構な角度のある斜面に取りついては無駄に肝を冷やすのです

車横付け降りて直ぐ とはいいませんがもう少し如何にかしたいものです



確か小父ちゃんはもう陽も高いし喰いつかないだろう とそういってましたが

幸運にも真っ昼間でも喰いついてくれるさかなも居いてくれて

おかげでこれ以上無駄に上を目指す必要もなく済みました



陽が暮れる前に仕掛けを切りましょう


陽が暮れてから仕舞いにしたのでは車に戻るまでに真っ暗になってしまいます

それに下手をすと谿から這いあがる途中で暗くなるかもしれません


ただでさえ谿筋は薄暗く気味の悪いところだってあるというのに

陽が暮れて辺り真っ暗ともなれば そんな時分には人も魔物も区別がつきません

小心者にとっては暗いだけでちぢみあがってしまうというのに

なにか出たりしたらもう大変です

なので 欲はかかず向こうの山に日が入ったらさっさと退散するのですよ


早春の里川にて

0 件のコメント:

コメントを投稿