2018/05/10

つりはじめ



年々釣へ出かける時期が遅くなって来ていた




特にここ十年くらいは
五月の連休が終わらないとその重い腰が上がらなかったが
一昨年くらい前から
連休が始まる前の暖かな日に一度か二度
近所の里へやまめ釣に向かう様になった



そして今年は
なんと三月の終わりに最初のやまめ釣に出掛けるまでに、、

というと何処か具合が悪かったのが徐々に良くなってきた風にも聞こえるが
実際には至って元気(健康か否かは不明)であって
三月四月に釣へ出ないのは 単に寒くて億劫なだけである
なので 別に心境や心身になにか特別変化があった訳でもない

今年に限って言えば 何時もよりもうんと暖かな日が続いていたせいだろう
ただそれだけの事である



暖かかな日が続いて
うちの回りや店の回りのさくらが一気に咲いた
だから
これなら里の春も早かろうと
そう思い込んでしまったのも無理も無い

でも実際には
それくらいの生ぬるさだけで山里のやまめが一気に活気づく事はない
何年も何年もそんな年が続いた後ならどうかは知れぬが
雪の無い冬がたった一度あったくらいでは
それくらいではなにも変わりはしないのである



兎に角勢い勇んで釣に出掛け
そしてちいさなやまめを幾匹か掛けた
やまめは本当にちいさかったけれど
それでも素直に嬉しかった

それにしてもだ
その年の初めにそれを手もとに寄せてくる感覚というのは
やはり何とも言えない幸福感がある

しかし
そんなちょっとした幸せなど
陽の暮れかかった谿沢にいると一気に薄らいで行くもんだ
春といってもまだまだ寒いからね 特に陽が暮れるとぐっと冷えてくる

そんな幸せな時が過ぎると途端に
「ああ 明日はのんびりしよう そうだいぬと一緒にマルタ釣へでも行こう」と
この日 これといって酷い目にあった訳でもないのに
さっきまでちょっとした幸せに浸っていたといのに
それなのに そうでもしないと自分は救済されないと そう思い込むのである





四月というとやまめ釣には良い時期だ
しかしこれもつり人特有の思い込みという重い病である

暦のうえでは三が四に代わり
如何にも季節が進んだように思えるが
実際には さくらが散ったくらいで他にはなにも変わった様子は無い
特に今年は三が異様に暖かかったせいか
四がそれ程心地よく感じない という事も大いに関係しているのかもしれない

それでもやまめ釣へと向かった
結果はこの前よりもやまめが更に小さくなっただけ
他に変わった事は何も無い 三が四に代わった事以外は



そしてあくる日は救済を求めるべく
大ウグイに心を落ち着かせてもらうため
近所の大川へ向かったのである
果たして ウグイは掛からず仕舞いであったが、、、

とにかく今年も毎週そんな心理戦が繰り返されて行くのである




だから翌週も当然の如くやまめ釣へ行った
そしてシーズン何度目かにして ようやく手のひらに余るやまめを掛けたのだ
するとすかさず明日は何処で両手に有り余る奴をと、、、欲がでる

しかし アテは無い
このまま調子に乗ってまたうすら寒い谿底で三度不幸を味わうのか
さてそうならない様にするには何処へ行こうか、、、と帰路の車中で思案に暮れる

そんなワタシの下へ救いの手が差し伸べられた
”明日クライミングへ行かないか”と
救済の主はシバノさん

釣の良い時期なんてのはまだまだ先である(に違いない)
ここは先人に従って損はない筈
そんな訳で明日は一回休んで岩に張り付く事に



これぞ負の螺旋階段からの脱出である

いやいや待てよ
順番(出目的には)としては もしかすると次におおやまめが来るのかもしれない
でも 世の中そうは問屋が卸さないのが常である
だから 楽しそうな事に誘われたら素直にそっちを向くのが良い(この時期は特に)
時には明日なにをするかを誰かに決めてもらうのも大事なのだよ




誰にも遊んでもらえない時は
そんな日はやはり釣に行く

しかし
まだ四月も半ば
そして やはりと云うか予感通りと云うか
またしてもやまめ達の機嫌は相当に渋く
更には 競争相手の差し出す飴玉は此方の物とは違い本物と来ている
言い訳にはなるが 誰にそんな言い訳をしたところで如何にもならない




またまたあくる週も行くのである

起死回生を願って
思い出した様に懐かしの谿沢へ向かう
山はモリモリと膨らんで
当にやまめの季節そのモノといった様相を呈してはいたが
早くも狩りつくされたのか それとも地合いなのかは不明だけれど
なにも起こらないと云う言葉がピッタリ嵌る そんな半日だった

昼を過ぎると天気が下り坂だと
そんな予報だった
けれどこのままではどうにも精神衛生上宜しくない気がした
だからではないけれど(だからなんだが)
熱心なつり人だった頃に
あの頃度々そうしていた様に
久しぶりに山を越え
幾つか尾根筋谿筋を渡って移動する事にした

先ずは峠を目指す
で 峠のトンネルを潜り終えたら
今度は出来る限りブレーキから足を避け
そうやって急いでくだるのだ
急いでいかないと次の谿沢へ着く頃には雨が落ちてくるとも限らないのでね



わざわざぐるっと巡って来てくれたんですね
いわなはそうは言わなかったと思うが
そんな気遣いが感じられる程に
気さくにワタシの放った毛鉤にポツリポツリと掛かってくれた

正直悪い気はしなかったけど
思った事が口からすらすら出る母親譲りな性分なので
”やまめを釣に来たんだがね”と
通じる筈のない相手と分かってはいるがそんな無礼な言葉を発していた




これまで五月の連休に釣へ行くことなど考えもしなかったが
ヒラタさんに誘われて
今では三期連続で国民的大型連休に釣へ通っている

で だからと言って(連休だから)特別人出が凄いのかといえば
幸運にもこれまで谿間で誰かに出会う事などもなく
それなりに初夏の遡行を満喫していた

しかし 今回ばかりはそうはいかなかった
そうは言っても全く釣に成らなかったわけでもないのだけれど
そこがまた何とももどかしいというか、、、

兎に角朝からさかなの反応は鈍かった
いつもの様に昼を食ったら好転するかと思われたが
腹いっぱい食った後もそれまで通りで
一向に変化の兆しは見られなかった

結局のところ先を釣られていたのである
可なり遡った辺りで足取り軽く下ってくる二人を確認
声を掛けると”おおきいのがいっぱいつれました”と満面の笑みで答えてくれた
それはそれは嬉しそうにそう云うのでなんとなく此方も幸せな心もちに
実際にはそうではないが あれくらい幸せそうな笑顔を見せられるとね

それにしてもヒトの幸せそうな顔ってのは良いもんだなあと
それだけは本心である、、、クソッ

シーズンは始まったばかりと思っていたけど
既に五月も半ば
どうにか暑くなる前に良いやまめを掛けたいものである
そんな滑り出しの 2018 春から初夏までのさかな釣

さらにつりはつづく

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