5 Mar 2018

秋のはじめに



つだくんと一緒につりへ行ったのはこれで四度目かな、、
でも これまでのつりは やま登りついでのそればかりだったから
ひとえに”つりに行った”というなら これが初めてかもしれない



八月の終わり頃だったか
明日はつりですかと彼が聞くので
「ええつりですよ」と云うと彼は「ではご一緒します」と

いつもながら話が早くて気持ちがいい

あの晩は確か
明日は薄暗い藪沢にでも入って
蜘蛛の巣にまみれになりながらやまめでも釣ろうと
そんな事を考えながら荷造りしてたんだけど
ひとまずそれは止す事にした
というか 根っからのつり人ではない者をだ せかっくの休みに連れ出して
そんな薄暗くて気の滅入るような気味の悪い谿へ行くのは気が引けると云うものだ
それにだよ そんなトコへ向かう決心など まだもう少し先へ延ばしても良いのだよ
なんといってもまだ夏でもある
暦の上ではどうか知らぬがね こちらの気分としてはまだまだ夏なのだから

なので 深い森の更に深い谿底、、、といえども明るく爽やかで
流れる水だってうんと綺麗に透き通っていて
そして 道中の眺めは眠気も吹っ飛ぶほどの景勝が楽しめる
さかなだって それはもうちぎって投げる程もかかる
そんくらいな処がよろしいかと思案に暮れた次第なんだが
しかし 気軽にほいほいっと日帰り出来きる所にはそんな好都合な谿沢がある筈も無く

なんでここは先ず一つ目の妥協をと云う事で
まあまあそれらに当てはまる ひとつか二つは当てはまるであろうと思われる
そんな美しき谿沢へ向かう事にした

ここはあまごにいわなが混じる谿
いいや あべこべか、、
とにかくその両方が泳ぐ美しい谿なのは間違いのないところだ



森も深く 河畔にはサワグルミやミズナラが枝をはり
その下の流れを塩梅良く覆っているから 真夏でさえも幾らか涼しい
あの日にしたって
秋と言えどまだまだとばくちで
夏の終わりって言った方がピッタリくるような そんな日だった 

まあだいたいつりに出掛ける時というのは寝不足の身であるから
陽に晒されっぱなしでは直ぐに息絶えてしまう ましてや夏並みの照りでは尚更だ
でも ここならそんな日照りを避けられるから都合が良い
おまけに 河畔の雑木は丈が高いので 棹を振るのにしても一向に邪魔になる事も無い
まったく良い事ずくめだ

とにかく 多少の妥協はあるがそんな良い事ずくめの谿でつりをした



”妥協する”というのは”こだわる”と同じ位印象悪く聞こえるが
どうやらそれは印象だけに過ぎず 現実はそうではないらしい

というのも この最高の妥協の地に降り立って直ぐにつだくんがあまごを掛けたのだ
まあまったくの初心でも無いのだから
そこで彼が直ぐにさかなを釣ったからと言って なんら驚く事もないのだが、、、

とにかくワタシはそのさかなを見たかったので急いで彼に近づいた
すると 彼はうまれて初めてさかなを見るかの様に
両手のひらにあまご乗せてそれをじっと見つめていた

ここでだね
「べたべたさわったら弱るから とか 水に浸けてやれよ」
だとかなんだとか云うのは それはもうまったくもって野暮ほかならない
それほど魅入られた様子であまごを見つめていたのである

さかなには気の毒で
甚だ身勝手であるのは承知だけれど 時にはそんな犠牲も必要なのだ
時間にしたらほんの一分程だろう ほんの、、なんて云うのも此方の都合だけれど
もしもの時は持って帰って食う覚悟でその様子を観察する事にしたのである
それにしても良い光景を見せてもらった 今思い出しても心が和む

ところで 当のあまごは元気に泳ぎだし深みへと消えて行ったのでご心配は無用である



あの日の釣果はよく覚えていないけれど
いや そもそも釣果を記憶していた事などないが
その代わり
その日の始まりから終わりまで 一連の出来事を漠然と思い起こすのが好きだ

例えば
これはこの日に限らないが ツダくんは早朝にからアイスを食ったとか、、
幸運にも目撃遭遇出来た動物の事とか、、
帰りに食ったあの食堂のタンメンはやっぱりうまいとか、、
そんなつまらない事ばかりだけれど

つりの話はあまりしない
あまりというより殆どしないかな
何故かというのは説明できないけど
つりについて理路整然とした説明が出来ないからっていうのが
その最たる理由かもしれない 何れにしてもそんなのはどうでもいいんだよ



車中から眺めてる分には
ここらの谿沢もまだまだ夏の名残が濃くて といった風に見えたけれど
車を降りると流石に肌寒かった

でも 陽が高くなるにつれて夏が戻り
どちらかと云うと 秋のつりというよりは夏のつりの延長といった雰囲気に変わった
そうそう 雰囲気のみならず いわなが主役の夏のつりそのものだったかと、、

いつもの様に昔の話になってしまうけど
其処には縦に長く 幅もそれなりで 水深だってそれなりに深い淵だったんだが
(石が綺麗に入った瀬と程よい深みの淵が彼方此方にあった)
水が出て砂礫に埋まり また水が出てはまた埋まり
そしていつの間にか細長〜い砂地の浅瀬になってしまった
ほんとに残念である
がしかし またいつか大水が出て その砂を洗い流して元の淵に戻るに違いない
希望に過ぎないかもしれないけど ずっとそう願って止まない
だからこれ以上コンクリーで谿沢を区切るのだけは止めて欲しい
そうすれば何十年何百年かかかるかもしれないけど また元に戻るだろうからね
でもまた其処へコンクリーを流し込んででもしたら 川はもうそれで終いだよ 



けれどもいわなはそんなつまらない 一見なんの変化もない流れに集まる
--- 好んで寄り集まってるのでは無いにしろ ---
みていて残念な気がするんだけど ほんとうにそんな処にいくらでも泳いで居るのだ
手前から作業よろしく準繰り釣りあげていけば
そこに居るいわなは幾つでも掛けられるだろうけど
でも そんなことをしたってしょうがないよね

物の本に書いてある事を鵜呑みにして 手前から順に、、、
なんて馬鹿正直にそんな真似を実行しちゃいけない

其処のたまりに幾らでも居るのなら
その中で一番大きなやつの鼻先に狙いを定めて毛鉤を放りこむのが良い
(もしくは どれを釣りたいかを決めてから毛鉤を投げようじゃないか)

大きなのを、、と願うならそうしなきゃいけない
シモから順になんてやってたら
いざそいつの番だと勇んでも 奴はとっくに何処かへ潜り込んでしまってるだろうからね

大きさなんて、、と言うならそれは話が変わってくるよね
数を望むなら順繰りと作業の様にかけて行けばいいよ
そう 愉しみ方はそれぞれだからね




さかなの気配が薄くなり ちょっと飽きたので
砂地の河原にぶっつぁり込んで早めに昼飯を喰った
ツダくんの献立は冷たいうどんにカラフトマスの燻製だった
箱にはマスの絵が大きく描かれているんだ
サーモンと言った方が良いのかな、、、

それにしてもマスって美味しいよね
日帰りだと 釣ったのを食うことなんて余りしないけど
河畔に泊まって それを焼いて食った時なんて なんでこんなにってよく思う
たまに食うからだろうけど それにしても美味いよね
持って帰って食ったところでそれ程の味はしないのに



昼飯の後も様子はあまり変わらずだった

さかなは うんとたまにしか見かけなくなったけど
それでも ひらけた明るい沢を遡るのが楽しかった
正直 遡るだけだったらそれほどまでには面白くはないのだろうけど
集中力が切れかかる頃になると決まってさかなが浮いて来たり
また運よく掛かったりするもんだから
ついつい 次の瀬次の淵を目指さなきゃって感じになってぐんぐん遡っていってしまう
これ以上行ったところで 今日はあまり釣れそうにないなって
ずっと心の隅でも頭でも分かってはいたんだけれど
あの 変なタイミングで釣れちゃうのがイケないんだよ キリが悪くてさ
それに 正直こんな筈じゃあ、、、ってのもあったのかもしれない

まあこれは毎度の事ではあるからね
ワタシはとにかく ”往生際の悪い奴” なんだよ
それの権化か化身と思ってもらって相違ない

ただ一つ
ワタシがその手の悪の化身だとしてとしてだ
ここで開き直る訳じゃあないが 
果たしてつり人に往生際の良い奴なんているのかね、、、



でもね 大体こう言う時ってのは
見覚えのある淵とか 大きく川が曲ってその先が見えなくなった所とかで
はっと我にかえるんだな

”明るいうちに谿を抜けなきゃっなんねえ”と

この時もそんな感じだった
ここで抜けないと厄介だぞって
あれってのは虫の知らせって奴なんだろうか
まだ暗くなるのを心配する時間でもなかったのに
悪の権化が途端に棹を仕舞うなんてさ

それとも「午後三時には谿から這い上がる事」なんて書いたお触書でも立ってたのかしら
見覚えはないけど、、、入渓点とかにね
確かに谿を這い上がるのに小一時間
それに加えて長い長い林道歩きが待っているから
時計のアラームなんかよりも 大いに虫に騒いでもらったほうが助けにはなる

蛇足だけれど
何処かの誰かがしてた時計には脱谿アラームならぬ
”コレから釣れだすよ”的なフィッシングタイムお知らせ機能があるから更にご注意を
夕方近くにそんなのが鳴ったら、、、あんた一生帰れなくなりますぜ




帰しなに 眺めの良い所でこちらを見透かしてるだろう神様のお墓へ寄った
約束した(勝手にね)通り”ワタシはこの棹っきり使ってませんよ”って言いに

”この棹っきり使わないって言った手前そうしてるんじゃないから”って
それも付け足しておこうと思ったけど
そんなこと言ったところで返事があるはずもないし
そもそもそんなの格好悪いからね とにかく無駄な言い訳はやめておいた
その代わり きょうも神さんよりうんと釣りましたってのは言ってやったけど




翌週はもっと南の方で雨子でも釣ろうと出かけたんだけど
あの辺りはまだまだ秋なんて、、ってな雰囲気だった
あちこち車で回っただけ 本当に結構走ったんだけど 全く何も起こらなかった
まあ 予感はあったんだけど
でも里だからって言って欲をかいたり無理をしちゃいけないと思ってね
あの日は虫の騒ぎもなかったけれど早々に切り上げる事にしたんだった




ここの所のつりで さすがに鈍感なワタシでも悟った事がある

秋といってもまだまだ夏のような陽気
これは本当に涼しくなって
秋だなぁって肌で感じるようになるまでは我慢のしどころなのだと

だからその間 もう少し山奥で過ごす事に決めた
ひらたさんがそれに付き合ってくれるって言ってたしね


秋がきて ワタシにしては珍しく連れのある釣り旅が続いた
おかげで山奥でも心細い思いをせずに過ごせましたよ
そんな秋の始まりに
(2017/08/29〜09/11頃の事)

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