15 Jan 2018

盛夏のつり



”夏まっさかり” を実感しないまま 気が付けば夏も残すところあとわずか






相変らずいぬのお供で近所の峪通いが続く盛夏

さすがに盛夏だけあって
いぬはいくら峪沢に手足が浸かっていようとも
可なり厳しき暑さのようだ

あの日 あまりの暑さに嫌気がさしたいぬが
”来週はひとりで行けよ” などとは決して言わなかったが
そこは付き人の心使いかな ヒト用ベッドに大の字で寝ているいぬには声をかけず
次の休みの日は そっと静かに家を出た





「どっち周りで行こうかね」

ここのところの話題ときたら最初から最後までそれに尽きた
電話でも 電子メールでも

登りきったら後は下るだけだから、、
などと余りに当たり前過ぎる話から
同じ時間なら眺めが良いに限るよね
と言った極端に観光気分的な方向からのそれ
最後は 兎に角その日のうちに釣が出来さえすればいいからと
ただの一点ではあるが その点だけは如何にか成らないものかと言った希望論

確か浜松くんは9時間とか言ってたかと、、、いやそういう事にしたんだったかな

蓋を開ければ14だったか15時間だったか
ひょっとしたらもっとかかって目指す幕営地のほんの手前へ不時着



夜更けに尾根の腹をジグザグに下ってようやく雨風凌げる場所まで辿り着いたのである

とにかくあきれるくらい歩いたのは云うまでも無く
だから当然その日のうちに釣が出来る筈も無く
いやいや本当に久しぶりの酷いくらいの長丁場だった

そんな這う這うの体であったから
更に先のテン場まで行こうなどと誰が言いだす筈もなく
何はともあれそこへ転がり込んだ

水を汲みに沢へ下りる事さえも後回しで
まずはと三人してせっせと寝床を確保する
それでひと心地ついて安堵したのか
ようやくうす笑いを浮かべながら朝からここまでを振り返る様に会話を始めた

そういえば まだ明けきらない暗い中を登り始めたんだったよね、、って具合に

そうそう 山中で出会った衆らが小屋を使いたいと言っていたが
この時間に誰が此処まで辿り着けようか
今夜の所は我々が遠慮なくこのバラックを使わせて貰おう
手足を思いっきり伸ばして寝るのだ
もしも、、そんな確率はほとんど無いが
それでももし もしあの衆らが幸運んも今晩たどり着いたら
そしたらその時はその時だとね




あくる朝
のんびりではあったが 何時山中で出会った衆らが到着しても良い様にと
粗方の支度を済ませ
朝飯を食いながら
さあ来るか いつ来るかと外の様子をうかがっていたが
ボクらが其処を後にする時間が来ても とうとう彼らは姿を現さなかった



広くて快適な幕営地で盛大にやる筈だった

でも きのうの夜はそれはそれは遅くまで歩いたのだ
さんざんと言う言葉がピッタリなくらいに
暗い山中を一体全体本当に今晩中に辿り着くのか?って考えならがらね
だから まだ朝も早くて 水もやたらと冷たい中を渡渉して
右岸に渡り更に左岸に返し河原を上がった時
そこで三人が寝られる広さの台地が目に飛び込んできたら
そりゃあもう誰もこれ以上先へ進もうなんて言わないよ
例えそこが石ころゴロゴロだとしても
これ以上歩くなら それをどかした方がまだ楽なんじゃないかって
滅多にある事じゃあ無いけど あの時は三人共これっぽちも違わない同じ考えだったね



幕を張ったら釣りにいくのだ 意気揚々と

確か おっきな雨子が幾らでも獲れるという話だったよね
ひとつ掛ける度に 「確かそうなんだよね」 ってはままつくんを問いただす
彼は 「そうですよ ちいさいのがいれば大きいのがいるんですよ」
と にやにやしながらいつもの訳の分からぬ持論で返してくる

だけれども つぎにはいわなが掛かって そのつぎも暫くいわなだった

埒が明かないので
確かおっきな雨子がいるって聞いたんだがね? と今度は自分に問うてみる 何度も
それに対して自答する ”この先の大岩の向こうに居るんだよ” と
そしてそれの繰り返し

すると 幾つ目の大岩だったかは忘れたが
三尺もあろうかという雨子が なんの前触れも無く
まったくもって無造作に放った毛鉤目掛けて浮いてきた

結果は周りの者を大喜びさせるにはなんの不足も無い程無残なものだった

この時あらためて考えた
誰かの導きで その日その釣場で釣をするのであれば
その時はそのひとを心の底から信じて
いつでも念のこもった投射をしなくちゃいけないと

もしいぬの様に従順に 澄んだ目を輝かせ彼を信用できていたならば
あの日 間違いなく あのおおきな雨子を手元に寄せて
意気揚々と幕場へ戻り 晩の焚火会だけにとどまらず
暫くの間幸せな日々を過ごせたであろにと

なんと大げさな
また明日があるだろうに、、と思われたかもしれない
しかし 三日の日程にてやまへ入ったは入ったのだが
さかなつりをしたのこの半日はきりだった

もとより二日目の朝を迎えた時点で
誰もがこの日の昼間以外に
さかな釣へ繰りだす時間などこれっぽっちも残っちゃいないって事を知っていた

だから 与えられた時間の半分を経過しただけだったが
件の理由により 一段と意気消沈して峪を下り幕場まで戻ったという事になる



すると 一足先に戻っていた幸せなじゅんいちくんが せっせとかまどを拵えていた

彼は 毛鉤つり二度目にして幾匹かのいわなを掛け
早々に満足感と共に峪をくだり 今宵の晩飯の支度にかかってくれたというわけだ 



半日遅れで何もかもを進めなきゃならないから
どうしたって時間が足りない
とは云っても足りないのは釣りをする時間だけだったんだけれどね

その代わり夜はいつも通りに長くて
飲み食いして過すにはなんの不自由もなかった

比較的静かな夜で 時々星が見えたりもしていた
でも夜が更けるに連れて 雨が落ちてきて 風も出てきて 遠くで雷もなり始めた
そしてとうとう雷鳴と共にそれなりの雨がやってきたが
幸せな三人はそんなものを気にもかけず夢の中へ

このまま平和な朝を迎えるかと思われたが未明に突風が襲う
そしておおきな幕を少しばかりではあるが傾けた
しかし それ程の被害もなく
それなりに平和な朝を迎えられたのは幸運だったのかもしれない




未練がましい様だけど ほんとに もう少しだけでいいからつりをしたかった
けれど辿り着くのに半日以上も要したわけだから
帰りもそれ相応の時間がかかるのは分かっていた
だから この沢の脇で2回目の朝飯を食い終わると
皆が直ぐに出発したがっている事がヒシヒシと伝わって来た

朽ちたつり橋を渡り返す前に一昨日の晩に転がり込んだ小屋に顔を出す
すると あの日山中で出会った衆らが元気な姿で座っていた

彼らは 間違いなく帰途にも足かけ二日を要すだろうからと
はままつくんに連絡先を託した ”もしもの時はよろしく” と言いながら
それはとても釣人らしく
しかし 笑って受け止めて良いものか悪いのか
果たしてどうしたものかはよく分からなかったが
とにかく 山中奥深くの小さな小屋にて
見知らぬ者同士が美しい親交を深めているのを目にしたのである

そう 確かにそんな朝であった
それと 何もせずに帰途へとついた三日目の朝でもあった



登り返しは雨の中だった
それでも山中は明るかったから ルートを探すにしてもそれ程難儀な事はなかったけれど
この先の長丁場を思うと 出だしから雨の中と言うのには本当にうんざりさせられた
ただ最初の尾根に取り付く頃には綺麗に晴れて
遠くに幾つもの高い山を眺める事が出来た
そんな眺めに浸りながら
不覚にも
こりゃあひょっとしたら楽に帰れるんじゃないかなと、、、

まあ それは大きな思違いに過ぎなかったんだがね

帰途は想像通り正しく来た時に掛かった時間を要した

ということは 来た時よりも可なり遅くに出発したというこでもあるからして
当然車止めに戻ったのは
あの晩河原に降り立った時よりも
うんと夜が更けてから、、、だった事は言うまでも無い

束の間の晴れ間で浮かれたのはもうまるで昨日の様
思えばあの尾根を越えてからずっと雨と霧と笹の中だった



余談ではあるが
一行の帰り(下山)があまりに遅いので
街ではちょっとした騒ぎが起こっていたようである
幸にして ベースキャンプスタッフ(参加予定だった)のツダくんの判断により大事には成らなかったが
通常街で我々の帰りを待つ者らは
当然明るいうちに下山してくるもだと思っているのだ
だから山へ入って好き勝手やる衆らは
陽が暮れそうな時点で如何にかして生存をアピールしなきゃならない
まめに電波の具合を見定めて その時点で可能なら 直ぐに一報を入れておこう
まだいいか、、と言うのは家庭不和の元ですので

良いですか
くどい様ですが遅くなる時はちゃんと連絡しましょうね
不和くらいで済めばいざ知らず
今後しばらくうちから出られなくなる刑に処されでもしたら、、、

真夏のつりで --- 生存確認の連絡はこまめに ---

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